北関東ドライブ 伊勢崎編
鉄道旅行に慣れると、なんとなく路線のネットワークが頭に入り、地理感覚が身に付いたように感じる。しかしそれは割と偏った地理感覚だと気づく。例えば伊勢崎は、東京から見るととても遠くにあるように感じるが、地図を見てみると本庄の向かい側にあることが分かる。実際伊勢崎、本庄間はバスも一時間に2,3本出ている。所要時間も35分で、高崎を経由する電車に比べて格段に早い。
車は伊勢崎にあるバナナ屋に向かっていた。果物屋では無くバナナ屋である。
バナナ専門店の梅田バナナ商店は、創業から50年近く経つ。ここでは青いバナナをフィリピンなどから輸入し、倉庫で熟成させて販売している。店先に立つ恭子さんは、佐賀県唐津の出身で、色々とご縁があって伊勢崎に嫁いできたという。でも故郷には特別な思いがあるようで、店の中にも唐津のお祭り「くんち」のポスターが貼ってある。
「ほら、食べてみなさい」
「ありがとうございます。いただきます。」
ん、これは美味しい。なんというか。後味が吟醸酒のような、とてもフルーティーな感じ。ちょっとスーパーに売っているようなバナナとは違う。
その美味しさの秘密は、このバナナの蔵にある。実は床の木の蓋を開けると、深さ3mの地下室になっている。この地下室に青いバナナを置き、エチレンガスを充満させて熟れさせるという。
「昔はこの地下室にもぐって、上からくるバナナを置いたり、熟成が終わったバナナを上に出したりしてたのよ」
恭子さんはバナナを乗せるリフトに自ら乗り、バナナより先に地下室に入って、熟成に励んでいたという。
故郷の話、バナナの話、気が付くと1時間以上も話し込んでいた。話しているときにもお客さんは絶えずやってくる。美味しいバナナは地元にもファンが多いようである。
「名前を教えて。今日の出会いを大事にしたい」そう言われて、僕は紙に名前を控えていった。
「また来ます」
店先で見送る恭子さんを後にし、僕は桐生へと向かった。